【文徒】2019年(令和元)7月26日(第7巻133号・通巻1553号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】講談社『はじめてのはたらくくるま』、ついに増刷中止!
2)【本日の一行情報】
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1)【記事】講談社『はじめてのはたらくくるま』、ついに増刷中止!(岩本太郎)

講談社が昨年11月に発行した3~6歳児向け乗り物図鑑『BCキッズ くわしい解説つき! はじめてのはたらくくるま 英語つき』がとうとう「増刷中止」に追い込まれた。全29ページ中6ページに渡って戦車や戦闘機など自衛隊車両が紹介されたこの本に対して批判が上がっていることは『』でも既に述べたが、7月22日に増刷が中止されることが正式に発表されたのである。
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1907/25/news091.html
講談社の公式サイトではこの件は昨25日夜22時までの時点で報じられていない。講談社には編集責任がないというお役所的な発想なのだろう。増刷中止の公式発表が行われたのは、同書の編集を担当した子会社たる講談社ビーシーのサイトだ。22日にそこで発表された「BCキッズ『はじめてのはたらくくるま英語つき』につきまして」の面を以下に引用する。
《弊社が編集いたしました「はじめてのはたらくくるま 英語つき」(2018年11月講談社発行)20ページ~25ページの記述につきまして、以下の通り、お知らせ申し上げます。
今回「はじめてのはたらくくるま」のなかで、「くるま」というカテゴリーに入らない乗り物、武器としての意味合いが強い乗り物が掲載されていることに関しまして、読者の皆様方からご指摘やお問い合わせをいただきました。
この件につきまして、弊社は当該の書籍が3~6歳という未就学児を対象とした「知育図鑑」として適切な表現や情報ではない箇所があったと考えております。本書についてはこれ以降の増刷は行わないこととしました。
今後、皆様方のご指摘やご意見を活かして、「図鑑」のジャンルに限らず、書籍の編集、発行をする際には、より細心の注意を払い、適確な情報を読者の皆様に届けられるよう、一層努力して参る所存でございます。
株式会社 講談社ビーシー
https://www.kodansha-bc.com/archives/2157
確かに編集責任は講談社にないのかもしれない。しかし、一般の読者からすれば講談社ビーシーも、講談社も区別はつくまい。何より、講談社に販売責任があるのは明白である。本来は講談社講談社ビーシーの連名で出すべき章なのではあるまいか。そうした広報的な思考も今の講談社にはできなくなってしまったと私たちは理解せざるを得ないのだ。広報を担当する役員は渡瀬昌彦常務であり、広報室のトップは常々自分はサラリーマンでないと豪語する乾智之室長である。
朝日新聞は24日付でこの件について《「武器としての意味合いが強い乗り物を子ども向けの本に載せるのは不適切だ」などと、市民団体や読者から指摘があったためだという》と報じている。「講談社ビーシーの担当編集者」は朝日の取材に対し次のようにコメントしている。
《様々な種類の車両を紹介したいとの思いだったが、幼児向けの知育図鑑としては適切でなかった。政治的な意図や要請があって掲載したわけではない》
https://www.asahi.com/articles/ASM7S6W6SM7SUCVL022.html
『ViVi』問題に続いて、お決まり(?)の「政治的な意図はない」がここでも繰り返されている!政治的な意図とは言わずとも、思想的な背景なくして、29ページ中6ページに渡って戦車や戦闘機など自衛隊車両を児童書で紹介することはないと考えるのが常識である。それでも「政治的な意図や要請があって掲載したわけではない」というのであれば、もっと言葉を尽くして語るべきだろう。
共同通信も《幼児向け乗り物図鑑に戦車 講談社、「不適切」と増刷中止」》を発表している。
《武器の意味合いが強い乗り物を子どもの本に載せるのは不適切―などとの指摘が読者から多数寄せられたという。回収はしない。》
https://this.kiji.is/526697181804217441
今回の増刷中止に至るまでの経緯を振り返ってみよう。
以前、「」でも紹介したが、「新日本婦人の会」が《絵本『はじめてのはたらくくるま』に戦車や戦闘機がズラリ》として4月18日付の機関紙で取り上げている。。
https://twitter.com/ichimiciao/status/1153658135384510470
https://teru0702.hatenablog.com/entry/2019/07/07/182950
5月16日には「子どもの本・九条の会」より児童学作家の浜田桂子、丘修三ほかのメンバーが講談社ビーシーを訪ね、同社取締役編集局長の本郷仁と編集長の寺崎彰吾と面談。2人からは「政治的な意図はない」「より多種の車を載せたかった」「売り上げを重視した」などの言葉があったという。「絵本コーディネーター」で学校司書なども務める東條知美がTwitterで、それを報じた『9ぞうレポート 号外』の写真を掲載している。
https://twitter.com/TOMOMIT/status/1153842578283847680
翻訳家で絵本の翻訳も手掛けるさくまゆみこ(青山学院女子短期大学教授)も7月5日に自身のブログでこの本について言及している
《子どもの本にかかわる人たちの間では、ただ今この本が「どうなの?」という話題になっています。(略)表紙を見ると、バス、郵便車、シャベルカー、消防車、救急車などと並んで、銃を撃とうとしている自衛隊員を乗せた車(高機動車というのだそうです)が(本屋さんで見た人に聞くと、この自衛隊車はオビで見えなくなっているそうです)》
http://baobab.way-nifty.com/blog/
詩人・童話作家で日本児童学者協会のメンバーでもあるという内田麟太郎は、7月12日に行われた同会の理事会で『はたらくくるま』問題が議論されたことを翌日には自身のブログで明らかにしていた。
講談社ビーシーより発売されている写真絵本『はじめてのはたらくくるま』に、消防車やシャベルカーなどと一緒に、自衛隊の戦車やミサイル、フリゲート艦(また、水平に銃を構えている自衛隊員)などが〈働く車〉として紹介されていることが審議されました。講談社は先の戦争で子どもたちをもっとも戦争賛美に駆り立てた出版社でした。戦後の講談社の出発は、その反省から始まっていたはずです。親会社である講談社は、子供に向かって本を出すとはどんなことなのか、もう一度、戦中をふり返り考えていただきたいと思います》
https://blog.goo.ne.jp/rintaro-uchida/e/1aa53456b95009ff7d4a40297e343167?fbclid
その内田が23日の17時過ぎに「重版はしません『はじめてのはたらくじどうしゃ』と題して、増刷中止に至る講談社ビーシーとの交渉の経過をブログで公表したのだ。どうやらここからウェブ上で話題が広がったらしい。
《幼児絵本『はじめてのはたらくくるま』(講談社ビーシー)に、銃を構えた自衛隊員を乗せたジープや戦車などが、働く車として掲載されていることに、子どもの本・九条の会(代表・丘修三)、日本子どもの本研究会、親子読書地域庫全国連絡会(代表・原良子)、そして私たちの日本児童学者協会は、講談社ビーシーに、本で子どもに伝えるべきは、人種、性別、国境を越え、友情と平和を語り続けることではないかと、意見書や要請書を出してきました。
むろん、言論出版の自由の立場に立つ協会は、販売停止や絶版は求めていません。子どもの本を出すときの、その姿勢を問うたのです講談社ビーシーより「重版はしない」という回答がありました。みなさんに報告させて頂きます》
https://blog.goo.ne.jp/rintaro-uchida/e/104ed2b12c61d5c89cfbe8eb32df8078
児童学・YA作家の梨屋アリエが同日19時過ぎ、講談社ビーシーによる増刷中止告知をTwitterで紹介。
《児童学界隈で問題されていた件。見解が出ました、(児童書ラブなツイッター民は知らないかもしれないので上げます)》
https://twitter.com/NashiyaArie/status/1153606994407727105
2009年に講談社から『「坂の上の雲」を読み解く! これで全部わかる秋山兄弟と正岡子規』を上梓している作家・評論家の土居豊は増刷中止の決断を叱る。
《これは講談社、日和ってはだかだ。戦車だって、立派な、はたらくくるま、の一つだろう? 自衛隊員の親はどうすればいいの?》
https://twitter.com/urazumi/status/1154184686446379008
こうした「くるま」や「のりもの」関連の絵本で自衛隊とかかわりのある「くるま」なり「のりもの」が紹介されることはある。しかし、29ページ中6ページに渡って自衛隊が占めるということは、これまでなかったのではないだろうか。次のようなツイートもあった。
《「はたらくくるま」じゃなく「たたかうくるま」で一冊作って購買者に選ばせればいいよ》
https://twitter.com/yukikazemai/status/1154223432562704386
「絵本コーディネーター」の東條知美はネット上の反響を見ながらさらにこう書いている。
《緊急座談会やりたいくらい、FBでは講談社の「はたらくくるま」に戦車掲載の件、重版とりやめの件で各論盛り上がっています。FBだけ…》
https://twitter.com/TOMOMIT/status/1154195291081330688
《「はたらくくるま」は1年生の教材として教育現場に入っていく題材ですから、「なぜ今?」が気になるところです。
各協会の懸念の一方「あれだって働く車だ」との多数ご意見もあります。少なくとも業界に議論が沸き起こる健全さを確認しつつ、さて親御さんは?幼稚園は?意見を聞いてみたいところです》
https://twitter.com/TOMOMIT/status/1154206246292996100
講談社講談社ビーシーに責任の総てを押し付けるのではなく、せめて「緊急座談会」の場を提供するぐらいの誠意を見せてもらいたいものである。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎先に報じられた、朝日新聞の新たな労働組合に対する便宜供与を会社側が認めるか否かの問題(6月に東京都労働委員会が会社側の不当労働行為を認め団体交渉に誠実に対応するよう命令)に関し、FACTA』がその「第二組合」と目されている「朝日新聞再生機構」についてレポートしている。合同労組「東京管理職ユニオン」の支部として今年初めに立ちあがった同機構には、現時点で30人が参加しているらしい。
https://facta.co.jp/article/201908002.html

東京管理職ユニオンといえば、青林堂が同ユニオンに加入の社員の実名や顔写真も掲載しつつ「金銭目当てで活動している」などと批判した『中小企業がユニオンに潰される日』を2016年に刊行したことをめぐる都労委からの決定が23日になされた。会社側の行為を組合への支配介入と認定。再発防止などを記した書を組合に交付するよう会社側に命じたという。
https://www.asahi.com/articles/ASM7R41Z2M7RUTIL018.html
https://mainichi.jp/articles/20190723/k00/00m/040/145000c

◎ちなみに3年前にKKベストセラーズの労使問題をめぐって、東京管理職ユニオンの協力も得ながら立ち上がった同社労組「KKベストセラーズユニオン」は既に消滅したという。公式サイトも閉鎖されている。
https://ameblo.jp/thebestblack/entrylist.html
KKベストセラーズは昨年1月末付でオーナーが交替。本社も以前の都内豊島区南大塚から、同区内の西池袋(地下鉄要町駅すぐそば)にあるビル4階にあるワンフロアに移転した。
https://www.kk-bestsellers.com/list/info/company
既報の通り今月1日には新社長に小川真輔が就任した。「リアル謎解きゲーム」を事業とするDASの、まだ30代のオーナーだ。
https://note.mu/ogawashinsuke
https://twitter.com/Shinny_life
ただしKKベストセラーズのオーナーは小川ではないらしい。このあたり諸々の変化の背景が気になるところである。

◎『版元ドットコム』で、都内赤羽の出版社「ころから」代表の木瀬貴吉が「再販制度って必要なの? 必要なら出版社は何をすべき?」と題して寄稿。去る6月末に日本ジャーナリストクラブ(JCJ)出版部会主催の例会で、休刊した『出版ニュース』の清田義昭が講演した際のやり取りを中心に書いている。会場で木瀬は清田にこう問いかけたそうだ。
《わたしは再販制度は不要だと思っています。しかし、小社も再販制度のなかで商売しています。であれば、どうやって再販制度を維持できるのか? この観点からの議論が必要ではないでしょうか? 具体的に言います。出版社は、書店に対して価格拘束する権利があります。であるなら、書店の粗利拡大(具体的には30%以上)と出版流通の健全化の責務は、出版社にこそあるのではないでしょうか?》
《小社は、トランスビューとの協業で書店と直取引をしています。これによって書店の粗利を30%以上にしています。また納品にかかる流通経費は全額出版社負担です。自動配本をしないので返品送料は書店に負担いただきますが、小社の実質的な卸正味はざっと58%といったところです。ですので、書店の存続を望み、出版流通の破綻を防ぐには、取次経由の出版社も卸正味を55~60%にする必要があるのではないでしょうか?
その前提あってこそ価格拘束する側にも『再販制度維持』の主張が可能になると考えます》
http://www.hanmoto.com/nisshi911  
清田が《木瀬さんも、そのようなことを外に向けて発信していく必要があるでしょう》と応じたのを受けての上記のエントリとのこと。ただ、他の参加者はこのテーマにあまり乗ってこず、その場では議論も盛り上がらなかった模様。

◎その清田義昭を講師に招いた会合が来週末にまた開催される。出版科学研究所主催「出版セミナー」の2019年度第1回で、表題は「今、出版業界に伝えたいこと 50年間業界を見つめてきた『出版ニュース』元編集長が語る」。定員70名で受講料は5000円。
https://www.ajpea.or.jp/seminar/2019-1/index.html

◎最新号が完売・増刷となった河出書房新社藝』編集長の坂上陽子が『BLOGOS』のインタビューに登場。
《ある作家さんが「戦後の学ブームはバブルだったんじゃないか」とおっしゃっていたことがあります。昭和初期に改造社が1円で全集を作る「円本ブーム」があり、戦後にも「全集ブーム」が起きて、世の中の知的啓蒙をしていこうみたいなムードがあった
こういう時代は、読まれなくても本が売れていた面もあると思います。それに比べて現代は、「本が読まれているな」と感じることが多いですね。(略)現代の読者はちゃんと本の中身を読んでくれていて、「もっと理解したい、他の本を読んでみたい」と思ってくれている人も多い。なので、個人的には読まれる本の絶対数が減っている印象はなく、消費の仕方が変わったのかなと考えています》
https://blogos.com/outline/392800/

電通イージス・ネットワーク(DAN)が「2020年より「イージス」を社名から外すことを計画」していると『Campaign』が報じている。
https://www.campaignjapan.com/article/%e9%9b%bb%e9%80%9a-%e5%90%8d%e7%a7%b0%e3%81%8b%e3%82%89-%e3%82%a4%e3%83%bc%e3%82%b8%e3%82%b9-%e3%82%92%e5%a4%96%e3%81%99%e6%84%8f%e5%90%91/453295

博報堂の雑誌『広告』のリニューアル創刊号が7月24日に発売された。特集のテーマは「価値」で、価格はこれも記念の特別価格「1円」。連動の特別企画として「1円ショップ」が『広告』ホームページ上にオープン。学研プラスが凸版印刷の協力で『学研 現代新国語辞典 改訂第六版』(税込3,240円)から約1円分にあたる24語の言葉を提供するなどの企画が盛り込まれた。
https://kohkoku.jp/
https://gkp-koushiki.gakken.jp/2019/07/24/12824/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000225.000008062.html 

◎2020年の「ニコニコ超会議」は、これまで毎年冬に開催してきたユーザー参加型ゲームイベント「闘会議」との合同開催で4月18・19日に行われることになった。会場は従来の「超会議」と同じ幕張メッセ
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1907/25/news087.html

◎嵐や松本潤らが主演のタレント主演映画が配信されるらしいということで「なぜこの時期に?」と『日刊サイゾー』が舞台裏事情に言及している。
https://www.cyzo.com/2019/07/post_211025_entry.html

◎そのジャニーズのスターたちが表紙に大集結した『週刊朝日』のジャニー喜多川追悼号は話題を呼んだが、この発売を朝日新聞出版が『PR TIME』で告知したウェブリリースも、上記の事情からすれば「永久保存版」になるかもしれない。何しろ過去の表紙からのコラージュということで、写真部分が例のマスキングで完全に覆いつくされてしまっているのだ。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000738.000004702.html