【文徒】2019年(令和元)12月27日(第7巻237号・通巻1657号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】編集者・作家の芝田暁が死去
2)【本日の一行情報】
3)【年末のご挨拶】
----------------------------------------2019.12.27 Shuppanjin

1)【記事】編集者・作家の芝田暁が死去(岩本太郎)

編集者で作家の芝田暁が亡くなった。享年54。通夜が25日夜、告別式が26日午前に都内・牛込神楽坂の牛込箪笥地域センターで営まれたそうだ。宮崎学が23日の夜にFacebookに訃報を投稿していたのを読んで知った。
https://www..com/permalink.php?story_fbid=2553437531556287&id=100006701948267
宮崎が《梁石日さんはもちろん、拙稿も編集していただきました》と述べているように、芝田に見出された作家は数多い。産経新聞文化部記者を経て児童文学作家に転じたたからしげるが、同じく23日にブログで彼の死を悼んでいた。
《芝田さんは早大第一文学部を卒業して、大月書店、徳間書店幻冬舎の編集畑を歩き、2004年には自らの出版社・スパイスを立ち上げたが、2年半で廃業後、ポプラ社を経て、いまは朝日新聞出版で宣伝プロモーション部専任マネジャーをされていた。
彼の手によって世に知られるようになった作家といえば、梁石日浅田次郎花村萬月山田正紀荒巻義雄、牛島信、田口ランディ松井計新堂冬樹、木戸次郎ほか、数多の名前が挙げられる。
業界でも一目置かれる、凄腕、ぴか一、やり手の編集者だった》
https://ameblo.jp/takarashigeru/entry-12561661724.html
芝田は日共系のマルクス主義の理論家として有名な芝田進午の息子だ。早稲田大学第一文学部卒業後、父親の本を出していた大月書店に入社したが1年で辞め、転職した徳間書店西村寿行の担当を務めたことが後のキャリアへの第一歩だったという話は、芝田自身が昨年11月に駒草出版から上梓した『共犯者 編集者のたくらみ』の中で、後に自身の出版社「スパイス」を興したものの2年半で潰した話なども合わせて書いている。
https://komakusa-pub.shop-pro.jp/?pid=136998089
同書は発売直後に『J-CAST』の「デイリーBOOKウォッチ」にも長い書評で紹介され、本誌発行人も引用と併せて芝田のプロフィールに言及している。結果的に同書が彼の遺作となってしまったようだ。
https://www.j-cast.com/bookwatch/2018/11/17008252.html
https://teru0702.hatenablog.com/entry/2018/12/18/070702
からしげるは上記ブログで、芝田から『共犯者』に続く第2弾の予定があることを聞かされていたと紹介している。自身がスパイスから2005年9月に書き下ろしで少年草野球小説『ラッキーパールズ』を出したものの、同社が7000万円を超える負債を抱えて倒産したことでお蔵入り(その後にkindle版で復刊)になった話もそこには書かれる予定だった。たから自身が以前にそのエピソードを綴ったエントリには、芝田の人柄をしのばせる記述がみられる。
《芝田社長はこのとき『ラッキーパールズ』まる1冊分のデータをそっくり収めたCD-ROMを、記念(?)にくれた。
「これさえあれば、他の出版社からすぐにでも文庫にして出せますよ」》
文庫版は叶わなかったが、翌年に同書が高校の入試試験に使われ、以後もそれが予備校の模試やドリルなどでも使われるようになったことから「おかげで、未払いだった一部印税の補填としては十分な額に達したかもしれない」とも述べている。
https://ameblo.jp/takarashigeru/entry-12383700823.html
26日の告別式に参列した映画監督の本田孝義がTwitterで追悼の思いを綴っていた。芝田とは1冊しか仕事したことがなかったが、本田の最新監督作品では試写会まで観に来て丁寧な感想までくれたそうだ。告別式が営まれた牛込箪笥地域センターは18年前に父親の芝田進午の告別式も行われたほか、母親の貞子が中心で開催している「平和のためのコンサート」の会場でもあるという。
https://twitter.com/hontaka1229/status/1209094383515009024
https://twitter.com/hontaka1229/status/1210055319209955328
日本文学研究者の助川幸逸郎も通夜に参列した。
田口ランディを見出し、梁石日に「血と骨」を書かせた稀代の編集者・芝田暁氏の通夜に列する。氏の生きざまが凝縮された、心に響く集まりであった》
https://twitter.com/Teika27/status/1209772670167859200
社会主義理論学会事務局長の田上孝一も父親のことに言及しつつ追悼。
《知り合いの知り合いという形で直接面識があっただけに残念だ。芝田進午先生の息子さんということで驚いたものだ。芝田先生の一番弟子だった故三階徹先生のこともよく知っていて、子どもの頃に可愛がられたそうだ》
https://twitter.com/tagamimp/status/1209496666211930113
労働研究者で法政大学教授の上西充子は芝田とは新宿区立早稲田小学校で同級生だったという。
《大学と印刷の町である早稲田。同級生の中にまめな人がいてネットワークを保ってくれていて、『呪いの言葉の解きかた』が出たあとに芝田さんは大学に来て、そのうち何か一緒に仕事ができることがあるといいねと話されていた》
https://twitter.com/mu0283/status/1209336005402058752
朝日新聞南相馬支局の三浦英之は、先月に「平和・協同ジャーナリスト基金賞」の奨励賞を受賞した自著『南三陸日記』(朝日新聞出版)の担当者が芝田だった。
《半年前に電話をもらい「もう1冊だけ一緒に作らせてくれ」と言われ、原稿を用意してた。熱量のある編集者だった。芝田さん、良い作品を作るよ、「壁」をぶちこわすよ》
https://twitter.com/miura_hideyuki/status/1209335579948670977
幻冬舎で『ホームレス作家』を担当してもらった松井計も嘆く。
《あまりにも若すぎる死であります。私などが言うまでもなく、氏は稀代の名編集者でした。私は氏と仕事ができてとても幸福でした》
https://twitter.com/matsuikei/status/1209162638728368129
引用しつつ盛田隆二も追悼のツイート。
《還暦間近と思っていましたが、まだ54歳だったんですね。マルクス主義者で哲学者で社会運動家の芝田進午氏のご子息でもあった。あまりにも早すぎます》
https://twitter.com/product1954/status/1209254235235180544
1年前の記事になるが、小学館和樂』編集長を務めていた「セバスチャン高木」こと高木史郎(現在は『和樂web』編集長)が『ダ・ヴィンチニュース』で「日本にはこんな漢=編集者がいる!!!」と題して芝田の『共犯者』の書評を書いていた。約20年前、同じ作家を担当していたという芝田のことを高木は「芝田のアニキ」と呼ぶ。大阪大学人間科学部文化人類学を学び、バックパッカーやテレビ制作会社を経て小学館に入ってきたという高木とはウマが合ったのだろうか。
《アニキはそのころ齢30を少し過ぎたころ。まだできて日が浅い幻冬舎の敏腕編集者としてヒットを連発する、私にとっては神のような存在でした。アニキはとても30ちょいとは見えない風貌で恐ろしいほどの存在感を放っていました。真っ黒な口ひげをたくわえ、眼光凄まじく、両切りの缶ピースを片時も離すことなくくゆらし、恐ろしく野太い声とは裏腹に凄まじく理知的な編集論をいつも語ってくれました。
男惚れした私はアニキにつきまとい、何度も朝方まで酒をあおりました。その美しい記憶は私の二十数年の編集人生においてもまばゆい輝きを放っています。私が梁石日さんの大ファンだと言うと、なんと!新宿のスナックに誘ってくれて梁石日さんを紹介してくれました。その時聴いた梁石日さんの歌は一生の宝物です》
https://ddnavi.com/column/503610/a/
高木は最近のインタビューでも「尊敬する編集者は」と聞かれて芝田の名前を挙げていた。
https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/quishin07/2
私(岩本)は芝田と一緒に仕事をした経験もない。ただ、かつて田口ランディ『モザイク』『アンテナ』の盗作疑惑がウェブ上を賑わせた際、直前まで田口の担当編集者だった芝田を幻冬舎まで訪ねて取材したことがあった。答えにくい質問にも言葉を選びつつ応えてくれ、懸命に著者を庇いながら、終始にこやかな表情を崩さなかった芝田の表情が今でも印象に残る(確か記事掲載後も抗議どころかお礼の電話かメールをくれたと記憶)。
個性溢れる様々な書き手たちとの仕事を通じて身体に溜め込んだストレスや疲労が早すぎる死へとつながったのであろうか。たからしげるに出版予定を語っていたという『共犯者』に続く第2弾の原稿がはたしてどこまで進んでいたのかも気になるところだ。

-----------------------------------------------------

2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎先週も報じた『映画秘宝』休刊(洋泉社が宝島社に吸収合併)の件について、編集長の岩田和明は21日に同誌のTwitter公式アカウントで「日本一売れている映画雑誌のまま、休刊いたします」と声明。『別冊映画秘宝』『特撮秘宝シリーズ』も併せての休刊に《今回の唐突な決定に、今もやりきれない思いです》《現時点での展望は、まだわかりません》としたうえで、最後は《でも、やるんだよ!》《これからの展開に向けて、立ち上がります》と結んでいた。
https://twitter.com/eigahiho/status/1208265574259625987
なおも休刊を惜しむ声が続く中、かつて町山智浩と共に同誌を創刊した田野辺尚人が上記の編集長声明をフォロー。
《経緯の詳細説明につきましては、会社の経営方針変更に基づくものであり、それ以上のことを現場にいる我々が物申す案件ではないことをご理解いただけますと助かります。突然に失礼いたしました。編集部から発する言葉は岩田編集長の声明が全てです》
https://twitter.com/tacopettei/status/1208305274122932227

◎作家(漫画家)・編集者の川崎昌平が『重版未定』『重版未定2』の絶版を、版元の河出書房新社に申し入れたことをFacebookで報告。
《1巻、2巻、3巻をまとめて出してくれる別の出版社を探そうと思います。
そもそも出版契約書結んでないんですよね、河出書房新社とは》
https://www.facebook.com/shouhei.kawasaki.52/posts/2630863210333689
川崎はさらに《2巻の売り上げが悪い以上、3巻を出せる道理もないわけですから、特に不満はないんです。》とコメントを追加していた。

太田出版は『クイック・ジャパン』のウェブ版を創刊。広告会社とうこう・あい(旧東弘通信社)が太田出版との業務提携により担当する。
https://qjweb.jp/
https://kai-you.net/article/70477

小学館から先月末に発売された「てんとう虫コミックス」の最新刊『ドラえもん』0巻は重版を重ね、発売1カ月で累計40万部を突破。これを受け第1~45巻についても2013年以来6年ぶりの全巻一斉重版を実施。28日からは全国の書店で緊急フェアも開催されることになった。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000496.000013640.html

◎『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の完全描き下ろし新作が今日27日発売の集英社ジャンプリミックス『平成こち亀7年1~6月』に巻頭カラーで掲載される。「マニア向け」の仕掛けも用意されているらしい。
https://www.oricon.co.jp/news/2151829/full/

◎光文社が『JJ』編集者と「JJnet」「CLASSY.ONLINE」のWebコンテンツディレクター(編集職)についての経験者採用を実施中。待遇は正社員または契約社員(正社員登用率90%とのこと)で応募締め切りは1月28日24時必着。
https://www.kobunsha.com/recruit/career/

◎『週刊文春』が26日号で「日経記者が厚労省のゴミ置場で書類あさり なぜ“邪道”な手口に手を染めたのか?」を掲載。30代の経済部記者で財務省記者クラブ(財研)サブキャップといえば、記事にある通り日経社内では王道の出世コースだが、定期的に一面トップ記事を執筆するノルマが厳しい中、焦りからかそこまでして内部文書を発掘しようとしたらしい。
https://bunshun.jp/articles/-/20819
もっとも、これも記事にある通り多くの新聞記者にとっては特に罪悪感を伴う行為でもないようだ。元朝日新聞社会部記者・元『AERA』編集者の烏賀陽弘道がさっそくつぶやいていた。
《こんなこと、邪道でもなんでもなくみなさんやってますよ。私も担当する警察のコピー室のゴミ箱から捜査書類頂戴しました。ゴミは所有権を放棄したものだから窃盗でもない》
https://twitter.com/hirougaya/status/1209461427347410944

テレビ朝日報道ステーション』の「大量派遣切り」と、それを批判する新聞労連委員長の南彰(朝日新聞記者)によるツイートは昨日紹介したが、私の知人で放送業界にも詳しい批評家の小林潤一郎が引用RTで新聞労連にも注文を付けていた。
《いま大手新聞社が進めている整理・校閲・制作の外注化(別会社化)は、それこそテレビ局が以前から下請け制作会社にほぼ丸投げしているのと同じ構図です。目的はとうぜんながら人件費の抑制です。
新聞労連は、他業種を批判している場合ではなく、早急に何かするべきことがあるのではないですか?》
https://twitter.com/junkoba1153/status/1209467801867390976

日本民間放送連盟(民放連)が「番組審議会ポータルサイト」を開設した。番審(正式には放送番組審議機関)は放送法第6条により、NHKや地上波民放などの主要な放送事業者には設置が義務付けられているが、局外から招かれる番審委員の選出方法や任期、議事録公開の在り方などは各局の裁量の範囲内で、かなりまちまちである。
https://j-ba.or.jp/council/
https://j-ba.or.jp/category/broadcasting/jba103625
ちなみに「出版人」関連では、頭脳警察PANTAが長らくFM-NACK5の番審委員を務めている。同局の番審議事録は毎回詳細に公開されている。
https://www.nack5.co.jp/council_report.shtml

博報堂は平成生まれのデジタルネイティブ世代のメンバーを集めて、企業コミュニケーションをプランニングする集団「CREATIVE TABLE最高」を発足させた。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000270.000008062.html

-----------------------------------------------------

3)【年末のご挨拶】(今井照容

本号が2019年における最後の配信となります。本年中は大変お世話になりました。
2020年の配信は1月6日からとなります。来年もまた、ご指導ご鞭撻のほど何とぞ宜しくお願い申し上げます。「文徒」2000号、「メディアクリティーク」200号、「出版人 広告人」100号も再来年には何とか達成できそうです。